
近年、小規模の介護事業者の倒産件数が増加しています。特に、訪問介護事業では、3年連続で過去最多を更新しています。本稿では、介護事業者の倒産が増えている要因と、倒産を回避するために取るべき方策について、弁護士が解説します。
増加する介護事業者の倒産

東京商工リサーチの調査によると、2024年の介護事業者(訪問介護事業、通所・短期入所介護事業、有料老人ホーム、その他)の倒産件数は、介護保険制度が始まって以降最多であった2022年の143件を上回り、過去最多の172件となりました。
前年比ではなんと「40.9%増」であり、介護事業者の倒産が急増していることが伺えます。
中でも訪問介護事業では、2025年11月時点で85件の倒産があり、3年連続で過去最多を更新しています。
規模別に見ると、圧倒的多数を占めているのは、資本金1,000万円未満、従業員10人未満、負債総額1億円未満の小規模・零細事業者です。
全国や広域に複数施設を展開しているような大手事業者と、地域密着型の小規模事業者との間で明暗が分かれている様子が明らかになっています。
介護事業者の倒産が増加している要因

高齢化社会の到来で介護サービスを利用したい、介護施設に入所したいというニーズは高まっています。
このように、近年、介護施設の需要が高まっているにもかかわらず、なぜ倒産する介護事業者は増加の一途を辿っているのでしょうか。
主な要因として考えられるのは、次の4つです。
要因① 人手不足
現在の日本で進んでいる少子高齢化の影響で、どの業界でも言われていることではありますが、介護事業においても人手不足の問題は深刻です。
特に、介護職は他業種に比べて賃金が低く、精神的にも体力的にもハードワークであるにもかかわらず、それに見合うだけの賃金が得られない等の理由で、離職率も高い傾向にあります。
介護事業を行うには、施設の種別ごとに、厚生労働省令で定められている人員基準をクリアする必要があるため、人手不足の状態では利用者を増やすことも難しく、経営難に陥るという悪循環になってしまいます。
要因② 収益確保の困難性
介護事業の収益は、国が定める介護報酬(介護サービスを提供した事業者に支払われる対価)に左右されます。
2000年に介護保険制度が施行されて以来、3年ごとに介護報酬の改定が行われていますが、この改定の際に介護報酬が引き下げられると、介護事業者の経営悪化に直結する可能性があります。
とりわけ、訪問介護事業では、2024年に介護報酬(介護サービスの公定価格)の引き下げが行われたため、後述する「物価高の影響」と相まって経営が圧迫される形となりました。この結果が、先にも述べた3年連続での倒産件数の最多更新に表れているものと思われます。
要因③ 物価高の影響

「最近は何でも値上がりする」という感覚を持っている方も多いと思いますが、
昨今、物価高が続いていることも介護事業者の倒産の要因となっています。
入居・滞在型の施設で常時発生する光熱費の高騰が経営を圧迫する一方、その増加分を回収すべく利用料を値上げするわけにもいきません。
そこで、職員の賞与減額や人員そのものの削減、新規採用を停止せざるを得なくなります。
すると、それが人手不足を招き、人手不足から新たな利用者を受け入れられず、収支が悪化するという負のスパイラルに陥ってしまうケースもあるのです。
要因④ 大手事業者の事業参入
倒産件数を規模別に見た場合、圧倒的多数を占めているのは、資本金1,000万円未満、従業員10人未満、負債総額1億円未満の小規模・零細事業者です。
このような小規模事業者が倒産する要因として、大手事業者の事業参入が挙げられます。
高齢化社会を迎え、介護需要が増す中、他業種から介護事業に参入してくる大手事業者が増えており、介護業界における競争が激化しているのです。
後から参入してくる大手事業者は、すでにこれまで手掛けていた事業で収益を上げていますから、介護事業に投入できる資金も潤沢です。
こうした大手事業者は、全国規模で施設を展開し、高い給与で良い人材を集めることもできます。
そうすると、どうしても利用者をそちらに取られてしまうことから、小規模・零細事業者の倒産が増えてしまうのです。
介護事業者が倒産を防ぐためにできること

介護事業は、物の売り買いで取引が完結する小売業などとは異なり、利用者の生活を支える、専門的・継続的サービスが特徴です。
介護事業者が倒産した場合、他の事業者が経営をそのまま引き継いでくれれば別ですが、引き継ぎができない場合は、利用者は新たな入居先を探さなければなりません。
人手不足の中ですから、新たな入居者を受け入れられる施設が手近にあるとは限らず、遠方の施設を選択せざるを得ない、順番待ちの間は家族による介護に頼らざるを得ない、といったケースもあるでしょう。
このように、介護事業者が倒産すると、サービスを受ける利用者本人のみならず、利用者の家族の生活にまで深刻な影響を与えかねません。
そこで、経営難に陥ってしまった介護事業者が倒産を防ぐためにできることを考えてみます。
職場環境の改善
実は、介護業界における離職理由として「職場の人間関係」を挙げる人が多いと言われています。
もちろん、「業務内容の大変さに見合わない低賃金」を理由に辞める方もいますが、職場における人間関係のトラブルが離職につながっている面も大きいようです。
倒産を防ぐためには、離職者がこれ以上増えることを防止し、人手不足に陥らないようにしなければなりません。
そこで、真っ先に取り組んでいただきたいのが、職場環境の改善です。
職場環境を改善するには、
■職員同士がコミュニケーションを取りやすい環境作り
■職場における各種ハラスメントの防止
が大切です。
定期的なミーティングでこまめに情報共有することに加えて、親睦会の実施や、悩みを相談できる仕組みを作るとよいかもしれません。
ハラスメントの防止には、研修会を実施することが考えられます。
ストレスの溜まりやすい業種とも言えますが、風通しの良い職場、職員一人ひとりが働きやすいように職場を目指して職場環境を改善していくことが、ひいては倒産を防止することにつながります。
職員の待遇を見直す

先に述べたように、介護業界では、「業務内容の大変さに見合わない低賃金」を理由に辞める方も多いようです。
そこで、給与等の待遇アップができれば、優秀な人材の離職を食い止めることができるかもしれません。
しかしながら、給与等の待遇アップは、物価高の昨今、そう簡単にはできないものであることもよく分かります。
この点、介護職員等処遇改善加算制度(介護職員のキャリアアップの仕組み作りや、職場改善を行った事業所において、介護職員の賃金改善を目的として支給される加算制度)が利用できるのに、利用していないということはありませんか。
これまでは、介護職員処遇改善加算、介護職員等特定処遇改善加算、介護職員等ベースアップ等支援加算の3つの加算制度が用意されていましたが、2024年6月からは介護職員等処遇改善加算に一本化されています。
介護職員等処遇改善加算制度を利用するには、処遇改善計画書や実績報告書などの作成・提出が必要ですし、訪問リハビリテーションや訪問看護など、加算の対象外となるサービスもあります。
ただ、もしこの制度が使えるようであれば、きちんと加算を受けて職員の待遇アップを行い、優秀な人材をつなぎ止めることで、倒産防止に役立てましょう。
業務の効率化
これも介護業界に限った話ではありませんが、人手不足が深刻化する職場では、業務を効率化することが重要です。
人間以外でもできる仕事は機械や技術に任せ、職員が人間にしかできないサービスに注力できるように環境を整えます。
例えば、利用者との関係では、見守りセンサーや介護ロボットの導入による職員の業務負担の軽減が考えられます。
介護ロボットの導入はある程度資金がないと難しいかもしれませんが、見守りセンサーであればそれほど多額の費用はかからないことが多いので、導入を検討してみましょう。
また、施設内の業務の効率化という観点では、記録の電子化やクラウド化によって情報共有を円滑にすることが考えられます。
このように業務を効率化することによって、施設で働く職員に体力的・精神的な余力が生まれれば、その分、利用者に対して質の高いサービスを提供することができます。
質の高いサービスを提供することができれば、利用者が増え、収支の改善が見込めますから、倒産防止につながります。
それでも経営に行き詰まってしまったら

「できる限りの手を尽くしたけれど、どうしても赤字を解消することができない」、「このままでは負債が膨らむばかりだ」という場合は、事業を閉じる決断をしなければならないかもしれません。
介護事業者の倒産は、サービスを受ける利用者本人のみならず、利用者の家族の生活にまで深刻な影響を与えかねないものですが、利用者のため、家族のために頑張ることにも限界があります。
むしろ、資金や資産が完全に枯渇してしまってからでは、破産申立てなど適切な倒産処理をするための費用すら工面できず、かえって利用者や家族、債権者などの関係者に迷惑をかけてしまいます。
当事務所では、これまで多くの会社破産をお手伝いしてきました。
経験豊富な弁護士がサポート致しますので、介護事業で経営難に苦しんでいる方は、一人で悩まず、是非当事務所にご相談下さい。
グリーンリーフ法律事務所は、設立以来35年以上の実績があり、18名の弁護士が所属する、埼玉県ではトップクラスの法律事務所です。 また、各分野について専門チームを設けており、ご依頼を受けた場合は、専門チームの弁護士が担当します。まずは、一度お気軽にご相談ください。








