会社(法人)やその代表者(社長)の破産申立の依頼を受けた弁護士は、会社に対し、そして、会社代表者に対し、破産手続き開始決定がなされると、破産した会社宛の郵便物は、破産管財人宛に、転送され、開封されますとあらかじめ説明するのが一般です。
そして、破産管財人に選任された弁護士も、破産会社の代表者に、そして、破産した元代表者に対し、(破産)会社宛の、(破産した)破産者宛の郵便物の転送を受け、中身を確認させていただく旨説明します。そして、管財人に宛てに転送された郵便物の、開封確認後の受け取りをどのように行うかを調整させていただいています。

破産法第81条は、郵便物などの管理について定め、同82条は、破産管財人が郵便物を開いてみる(これを「開披する」といいます)権限を定めています。
この郵便物の転送、破産者宛の郵便物の破産管財人による開披の権限は、基本的人権である通信の秘密(憲法21条2項)を制約するものですが、破産財団に属すべき財産を発見し、又は、破産者による財産の散逸や隠ぺいなどを監視し、防止するために、必要かつ有益であるので、特に認められたものです。
管財人として、転送郵便物から、報告されていなかった有価証券取引を発見したり、保険会社からの自賠責保険の更新案内の通知から、保有する車両や保険契約を発見することがありました。
また、破産者である相続人宛の固定資産税の課税通知により、未分割の遺産不動産の存在が判明することもあります。
また、個人の破産管財事件における、一般的に債務の支払い義務の免除を不許可とすべきとされる免責不許可事由の有無に関連した事情(浪費の改善がなっていないと認識される事情など)をうかがわせる事情を発見することがありました。

郵便物の転送を巡っては、会社代表者は支払い不能になるような債務を負っていないか、住宅ローン付きの自宅を有しており、速やかな再就職により、住宅ローン特則付きの個人再生手続きを利用するなど、破産会社の代表者の方は、破産手続きを取らない場合があります。
このような場合に、破産会社代表者宛の郵便物が、破産した会社の破産管財人に転送され、それが管財人に開披された後に、交付されることがあるため、破産していない会社代表者から、「私は破産していないのに、私あての郵便物が開封されていたけど、これは仕方ないのかな」と相談を受けることもあります。

1 破産者の郵便物の管理

(1)破産裁判所による、破産者宛の郵便物・信書郵便物の管財人への転送嘱託

破産裁判所は、破産管財人の職務遂行のために必要があると認めたときには、破産者宛の郵便物・信書郵便物を、破産管財人宛に配達すべき旨を、事業者に嘱託できると定めています(破産法81条)。
現行法は、事業者に対する、上記の転送嘱託を義務とはしていませんが、実務上は、特段の事情がない限り、「その必要がある」(破産法84条1)として、転送嘱託を行う扱いです。

(2)破産管財人は何をするか。

破産手続き開始決定後、破産者宛の転送郵便物が、管財人事務所に転送されてきます。
破産管財人は、転送を受けるたびごとに、その郵便物、信書郵便物を開封します。
その内容を確認します。
転送郵便物が、請求書であれば、債権者が漏れていたのではないか、破産債権者として処遇すべきかを検討します。
破産申立に際し、また、破産管財人と破産者、その申立代理人との面談(管財人面接と呼びます)時に再聴取しても判明していなかった財産(の手掛かり)が発見される可能性があります。

私が破産管財人を務め、翌週月曜日に、異時廃止で破産手続が終結する予定であった破産会社が保険契約者である、自賠責保険の更新の案内が金曜日に当事務所に届きました。
その内容を確認後、破産会社代表者へ緊急の聞き取りを行い、その保有車両の有無、当該車両の状況、また、申告漏れに至った事情を確認し、対応した例があります。

(3)破産者への返還の時期について

転送された郵便物などは、開披して、内容を点検しますが、法人の場合には、破産事件終結時に、他の記録とともに、処分することになります。
破産者が個人の場合には、管財業務に必要なもの以外は、すべて破産者に返還します。
破産者から、事前に、転送郵便物中に、早期の返還が必要なものを聞き取り、また、転送郵便物として、管財人事務所に届いていないかを電話確認してもらうなどの打ち合わせを行います。

また、時期的に速やかな転送が予想されるもの、たとえば、国政選挙や地方選挙の投票所への整理券の速やかな返還、年賀状については、管財人事務所の年末年始休業の間の郵便局への留め置きと、年始の業務再開後の、郵便物の配達後の確認による、返還までの時間がかかることをあらかじめご説明し、年始の挨拶への応答が遅れることになり、義理を欠くことにもなりかねないことをあらかじめご説明します。

(4)破産者への返還の方法について

転送された郵便物の返還については、次のような対応を取ります。

① 破産者が破産管財人事務所まで取りに来る方法があります。

破産者の通勤経路の途上に、管財人事務所があると、破産者から、取りに伺いますと申し出てくれることがあります。
その際でも、事前に、返還可能郵便物の有無や、その日時をあらかじめ調整してもらうことになります。

② 破産管財人から郵送発送による方法が一般的です。

破産者から、管財人から破産者に返還するための郵便切手を預かっておき、適宜破産者宛に、管財人発信郵便物として、郵送発送する方法があります。
初回の管財人面接時に。郵便切手を預かっておきたいので、事前に申立代理人事務所にその用意を伝えます。

③ 債権者集会の際に、まとめて破産者に渡す方法

債権者集会には、破産者や申立代理人が出席しますので、その際に、まとめて渡します。
さいたま地方裁判所の運用では、個人の自己破産手続きにおける管財事件でも、その管財手続きが終結するまで、管財人が郵便物の転送嘱託の延長を申請しますので、最後の集会後に、郵便物の転送嘱託が取り消されます。
郵便事業者への転送嘱託の取消がなされても、その取消以前に、転送された郵便物が破産管財人事務所に配達されることがあります。
終結する債権者集会において、その旨を破産者に説明しています。

2 転送嘱託の対象

破産者に宛てた郵便物などです。

(1)破産者が法人である場合

破産者が法人である場合、法人代表者個人宛の郵便物等は含まれません。
法人代表者名義で法人宛に出されている郵便物等は含まれます。
破産者が法人の場合、本店、支店、営業所など配達される可能性がある場所を管轄する郵便局等に嘱託がなされます。
本店が横浜市所在、事業所が群馬県太田市の事案では両方に転送嘱託されています。

ところで、中小企業においては、法人の本店所在地が、代表者の自宅住所と同じという場合が見受けられます。
そして、法人のみの破産で、代表者個人は破産しない場合に、「法人代表者名義で法人宛」に出されている郵便物等に、「法人代表者個人名義で、法人の住所宛つまり代表者の住所宛」の郵便物が、転送嘱託を受けた郵便局により、破産管財人事務所宛に転送されてしまうことがたまに見受けられます。
これが、冒頭の、破産手続きを取らない代表者の疑問となったわけです。

(2)相続財産破産の場合

破産者が破産手続き中にお亡くなりになられたとかの場合、相続財産破産の手続きとなります。
相続財産破産の場合、破産法81条の、郵便物などの転送嘱託の対象として、相続人等を準用する定めが設けられていません。
よって、相続人宛の郵便物等についての転送嘱託は許されないと解されています。
ただ、死亡している被相続人宛の郵便物等には、破産者宛のものと解して、転送嘱託可能と解されております。

3 破産管財人の開披の権限

(1)憲法の通信の秘密の制限であること

破産裁判所の転送嘱託により、破産管財人が受け取った郵便物等はもちろん、破産財団に属する財産の管理に伴い、占有を取得した郵便物等についても、破産管財人は開いて見ることができます。
破産管財人は、破産者に宛てた郵便物等であれば、破産財団に関しない郵便物等も、破産管財人は開いて見ることができます。
管財人は、破産者宛の郵便物等については、開いてみて見なければ、破産財団に関するものか関しないものかはわかりません。
そこで、破産法は、破産管財人の管理処分権を実効あらしめるために、破産法が特別に認めたものと解されています。
しかし、憲法上の基本的人権である通信の秘密を直接制限するものです。
よって、この管財人の権限に関する解釈・運用は、慎重になされなければなりません。

(2)破産財団に関しない郵便物等であることが一見明白なものの場合

破産管財人は、開披の権限を行使せず、そのまま破産者に交付することができます。

(3)破産者宛の郵便物等により知った破産者及びその家族などのプライバシー等の秘密について、破産管財人はどのような義務を負うか。

破産管財人は、郵便物などを開披して知った秘密などを他に漏らさない義務を負います(破産法85条)。
違反すれば、当然、損害賠償義務を負います。
破産管財人の秘密漏示を直接処罰する規定はありません。
しかし、弁護士が破産管財人である場合には、弁護士の秘密漏示罪という刑法上の犯罪(刑法134条)に該当することがありえます。

(4)問題となった事例

法人のみの破産で、代表者個人は破産しない場合に、「法人代表者名義で法人宛」に出されている郵便物等に、「法人代表者個人名義で、法人の住所宛つまり代表者の住所宛」の郵便物が、転送嘱託を受けた郵便局により、破産管財人事務所宛に転送されてしまうことがありました。

管財人が、本郵便物等が一見して破産財団に関しない郵便物等であることが明白でない場合、そして、破産会社の代表者が、会社経営の実務に携わっていなかった名目的取締役の配偶者が定款(または、定款変更の手続きを経て)により、(破産申立等のために)代表者に就任し、破産した会社の実務を全くというかほとんど何も知らない場合、管財人は、転送郵便物から、破産した法人、そして破産財団に関する情報を得ようとします。
これにより、実質破産者代表者個人宛の郵便物が開披されてしまうという事態が起こったようでした。

(5)申立代理人としての対応

破産会社代表者からの、代表者個人宛の郵便物等が開披されているという報告を受けた場合、申立代理人としては、下記の対応をとることとしています。

① 破産裁判所に対して

破産裁判所宛には、破産者宛転送嘱託の、嘱託先郵便局への破産者(破産会社)以外の、破産会社代表者個人宛の転送は不要(不許)であることの周知徹底手配のお願いする旨の上申書を提出します。
破産裁判所によっては、転送嘱託先郵便局に、その分別徹底を指示するなど適宜手配をしてくれます。

② 破産管財人に対して

破産管財人宛には、破産していない破産会社代表者宛の郵便物について開披は極力避けられたいとする連絡文書の発送をします。
これについては、破産管財人からの対応の一つは、破産会社の情報を得るためにやむを得ないので、引き続き、開披を行うという意見を述べた管財人がありました。
しかし、この管財人の事案では、裁判所の上記の対応からか、破産会社代表者個人宛の郵便物等は、破産した会社の管財人には転送されることはなくなり、会社代表者の不安は払しょくされました。
他方、やはり、破産会社の情報を得るため、また、一見して破産会社代表者個人宛のものと認識できず、開披したところ、やはり、会社財産の情報があったこと、また、仮に、破産会社代表者個人及びその親族のプライバシー等にかかわる内容である場合には、管財人として、当然ながら、守秘義務を尽くす所存であることを改めて宣言していただき、破産会社代表者の安心を得ることができた事例がありました。

4 まとめ

会社(法人)のみが破産申立てをし、管財事件となり、破産会社代表者は、自己破産しないことがあります。
会社代表者も経営していた会社と同時に、又は引き続いて自己破産した場合には、通常は、破産法人の破産管財人と、代表者個人の破産事件の破産管財人は共通です。
よって、裁判所から、破産者宛の郵便物の転送嘱託により、破産管財人宛に、法人である破産者宛のもの、個人である破産者宛のものが転送され、共通の破産管財人に、転送された郵便物等が開披されることについて、破産会社の代表者が不安になったりすることはありません。
破産していないのに、破産会社代表者個人宛の郵便物が法人の管財人に転送され、それが開披されてから、返還を受けること(があること)により、申立代理人弁護士から説明を受けていた事情が違うと疑問を呈するのです。
破産した会社の事情(申立て時の代表者が会社の事情をよく知らないなど)によっては、郵便物等の開披が破産管財人の情報収集の重要な手段として機能しています。
そのほとんどが弁護士である破産管財人は、守秘義務を負い、それを厳守し、実務に対応しています。

破産しない代表者宛の郵便物の開披の問題は頻繁ではありませんが、稀に起こりうるものです。
これらに問題については、会社経営者である代表者の方に対して、法人の破産申立や管財事件における管財人職務の経験豊富な弁護士の所属する当事務所では、適切なアドバイス、対応が可能です。是非ともご相談・ご依頼ください。

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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 榎本 誉
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