紛争の内容
破産会社の廃業直前の什器備品の売却処分の対価の相当性が問題となった事案

交渉・調停・訴訟等の経過
破産した会社は、分譲マンションの販売会社から依頼を受けて、そのモデルルームを製作する建築会社です。
モデルルームの製作依頼は、その販売会社の一担当者から、直接指名を受けて、各モデルルーム設置場所に出向いて、販売会社が用意した資材を用いて、モデルルームを製作していました。
製作に携わる従業員も多い時には、8名を有し、相応の年商を上げていました。
しかし、販売会社の担当者の退職に伴い、同販売会社からの指名(受注)が減り、廃業を決意する数カ月前には、代表者と一名の従業員となりました。
そこで、代表者は、賃借している作業場と、そこに設えている什器備品を「居抜き」で購入してくれる同業他社に、金200万円で売却し、その後の運転資金に充て、細々と事業を継続したり、社長が転職をしたりして、会社が金融機関から借り入れ、社長も連帯保証している運転資金を返済していくことを考えました。
しかし、継続返済の見込みを検討するうちに、その資金繰りは到底困難と考え、会社と、社長自身の破産申し立てをして、経済的に再出発をすることを決断されました。
裁判所から、本件破産事件の管財人就任の打診を受けた際に、廃業間際の、賃借作業場所在の什器備品の処分の相当性を調査するように特に指示がありました。
破産した会社は、本申立に先立ち、機械工具什器備品一式全部と賃借した作業場の敷金(契約書には未記載でしたが、賃貸借契約当初に家賃2か月分相当を支払ったとの報告がありました。)を、後継企業に総額200万円で譲渡したものです。
まず、決算書類を確認しましたところ、その簿価は償却済みの残存価格しか掲載されておりませんでした。
また、什器備品の個別の内容も、売買契約書に添付された一覧では十分ではありませんでした。
代表者に確認すると、後継企業とは懇意であるので、従前の状態のまま使用しているならば、その作業所内部の状況を写真に撮り、売却した什器備品をさらに特定できるとのことでした。
代表者から、それらの追加報告を受け、これらの什器備品の売却価格の相当性を確認するため、当職の同社の管財人就任の官報公告を確認し、什器備品の売却に協力するとの連絡をしてくださった中古機械備品などの買取業者から、3社を選び、写真資料などからの書面査定の依頼をしました。
この3社は、いずれも快く協力してくれ、1週間と経たずに、見積もりないし査定書を送付してくれました。
買取査定額の最低は30万円、最高額は50万円でした。
また、破産会社代表者が後継企業から、賃借人の地位を承継した、つまり、名義変更した賃貸借契約書の写しも提出されました。
これらを確認すると、破産会社の廃業前の、敷金の譲渡、賃借作業場に備え付けられた什器備品の200万円での売却は不相当と判断できるものではありませんでした。
そして、この200万円の使途についても、破産債権者に対する共益的な支出である、破産申立の弁護士費用などに充てられ、その残金は、破産財団に引き継がれました。
そして、破産財団には、会社契約の保険の解約返戻金があり、ある程度の財産が形成されました。
他方、信用金庫の出資金についての配当金が数百円ありました。
同信用金庫によると、窓口において支払いの手続をとるか、少額であるからは破産財団から放棄されるかの選択を求められました。
窓口に赴くと、その往復の交通費をかけても赤字にはなりませんが、その余剰は数十円程度でした。
よって、出資金についての配当金については、破産裁判所の許可を受けての財団から放棄することとしましたなお、出資金は、破産債権者である貸付債権と相殺される予定です。
この破産会社には、その他換価すべき財産はありませんでした。

本事例の結末
形成された財団は、簡易配当の手続をとるか、費用不足による異時廃止とするか、微妙な財産額でした。
そこで、破産裁判所と協議し、この破産法人については、異時廃止として、破産手続を終結することになりました。

本事例に学ぶこと
会社法人が、廃業前に、会社の保有する什器備品を売却などの処分をすることがあります。
廃業を決意するときには、賃借作業場などの賃貸借を終了させ、明渡を完了する必要があります。
什器備品を売却して、賃借物件から搬出し、明渡の作業をすることがありますが、本件のように、後継企業が関心を示し、作業場の賃貸借を引き継ぎ、作業場に設置された什器備品を撤去することなく、相当額で購入してくれることがあります。
本件では、このような後継企業が現れなかった場合、什器備品を、各査定額の30万~50万円で売却しても、原状回復工事の費用を賄えたか、また、破産申立の弁護士費用・管財手続きの費用を工面できたか難しい事案だったと考えます。
そして、本破産会社は、ほぼ唯一の取引先からの受注が途絶え、同社の営業権はほとんど価値を有しておりませんでした。
それが、同業他社が現れ、めでたく200万円で購入してくれ、その後の手続のための資金繰りができた稀有な事案です。
これにより、法人破産の手続きをとることができ、また、破産手続をすることによって、債権者各位にはせめてもの、貸倒処理の税務上のメリットを享受差し上げることができました。
また、什器備品を売却した代金の相当性も特に問題なしとなりましたが、申立前の段階で複数査定をとっていると、管財人の調査も不要な事案でした。
本破産管財手続きは債権者への報告集会は2回行われましたが、同時に自己破産した代表者の自家用車(いわゆる逆輸入車)の処分の相当性も問題となっておりました関係で、その調査もあり、2回の集会が必要となりました。

弁護士 榎本誉