紛争の内容
株式会社Aは、長年にわたり足場工事・仮設業を営んできました。代表取締役のBは、業界での経験も長く、技術力には定評がありました。しかし、近年、同社を取り巻く環境は厳しさを増していました。
まず、建設業界全体の不況により、新規の工事案件が減少し、それに伴い、価格競争が激化し、粗利益が圧迫される状況が続いていました。また、人手不足が深刻化する中で、熟練工の確保が困難となり、外注費が増加。さらに、資材価格の高騰も経営を圧迫する要因となっていました。
このような状況の中、株式会社Aは、新たな受注を獲得するために無理な受注を重ねていました。しかし、その結果、資金繰りが悪化し、協力会社への支払いが滞るようになりました。銀行からの融資も限界に達し、ついには従業員への給与支払いも困難な状況に陥りました。
代表取締役のBは、経営改善のために様々な手を尽くしましたが、状況は好転せず。最終的には、会社の事業継続が不可能であると判断し、破産手続きの開始を申し立てることを決意しました。

交渉・調停・訴訟等の経過
破産申立ての準備として、会社の資産状況、負債状況を詳しく調査し、破産手続きの流れについて説明しました。
この時点で、主な債権者は金融機関数社、協力会社数十社、そして従業員でした。
債権者に対して、破産手続きを進める旨を通知し、必要に応じて個別の説明を行いました。特に協力会社に対しては、突然の破産による影響を最小限にするため、誠意をもって対応しました。
裁判所への破産申立て後、破産管財人が選任されました。破産管財人は、会社の財産を保全し、換価する作業を進めました。換価対象となる財産は、足場資材、重機、車両、そして少額の預貯金でした。しかし、これらの資産を売却しても、負債総額には遠く及ばない状況でした。
従業員に対しては、未払給与や退職金の請求について、労働者健康安全機構が運営する未払賃金立替払制度の利用を案内し、手続きを支援しました。

本事例の結末
最終的に、株式会社Aの破産手続きは完了し、法人格は消滅しました。代表取締役のBも、会社の負債の連帯保証人となっていたため、自己破産の手続きを取りました。手続きはスムーズに進行し、免責許可が決定されました。

本事例に学ぶこと
相談から申立てまでの期間が短い場合でも、債権者、特に金融機関や主要取引先への適切な情報開示と説明責任を果たすための迅速な準備が求められる。

弁護士 申 景秀