紛争の内容

 夫は10年程前から個人で塗装業を始め、業績が好調(年商1億5,000万円以上)であったところ、知り合いに勧められて事業を株式会社化した。
 ところが、その直後から、人件費の増加と法人化したことによる社会保険料の増加に苦しむことになり、そのうえ仕事の単価は下がる一方で、業績は急激に悪化し始めた。
銀行からの借入れや県の制度融資を使って凌いできたが、今度はそれらの返済にも窮するようになり、つなぎ融資を受けて返済に回す、「自転車操業状態」となった。支払うべき税金(法人税、消費税等)についても滞納が続いた。
遂には、会社の名前ではこれ以上の融資を受けることができなくなり、代表取締役をしていた夫、取締役をしていた妻の、それぞれ個人名義で借入れをして、それらを全て事業資金につぎこんだものの、これ以上の業績回復は見込めないため、破産手続きをとることにした。
会社の負債総額:約9,000万円
会社の従業員数:6名
会社の目ぼしい財産:在庫塗料缶が1ダースほど
夫の負債総額:約7,000万円(自宅の住宅ローンを含む)
妻の負債総額:約4,500万円

交渉・調停・訴訟などの経過

①申立まで
 依頼を受けるにあたっては、弁護士費用と裁判所への引継ぎ予納金を確保するため、会社の売掛金をきちんと回収してもらい、それらが入金されたら即引き出して、弁護士事務所の口座に入れてもらうよう指示した。
そのうえで、会社が借りていた事務所については契約を解消して引き払ってもらい、会社財産となる在庫塗料缶については、自宅の鍵のかかる物置に厳重に保管してもらうことにした。この他、会社名義の車が2台あったものの、いずれも高年式かつ汚損が激しかったため、申立を待たずして処分することにした(ただし、査定協会の査定書にて「価値ほぼゼロ」であることの証拠を残しておく)。
従業員に対しても未払いの給与があったが、代表者夫婦と従業員との日頃の関係が良かったためか、弁護士介入前後にも大きな混乱はなく、事情を納得してもらったうえで債権届出をしてもらうことができた。
銀行など大口の債権者以外に、何社か小規模な取引先が債権者として挙げられたが、このうちの何社かには、弁護士に依頼する直前に廃棄物の処理等を依頼しており、その代金を支払ってもらえなくなると知った業者が代表者の実家にまで押し掛ける事態となったが、弁護士が間に入って話をしたところ、強引な回収はせず、手続きに則って債権届出をしてもらうことができた。
 従業員の未払給与に対していくらか配当が回ることを期待したかったが、税金の滞納が1,000万円弱に膨らんでいたため、それは難しいだろうと判断。1日も早く申立をして開始決定をもらい、選任される管財人に、労働者健康福祉機構の立替払いの制度を利用してもらうことを考えた。
 代表者夫婦の借入れは、夫名義の住宅ローンを除くと、他は全て事業資金のための借入れであり、かつ、夫婦ともに会社名義の借入れの連帯保証人にもなっていたことから、会社と一緒にこれら2人も破産を申し立てた。
      ↓
②申立後
 裁判所から選任された破産管財人が、会社財産である在庫塗料を売却してお金に換え、未払給与に関しては立替払いの制度の手続きを取ってもらった。結局、配当手続きにはならず、会社の破産手続きは終了した。
 夫の手続きでは、管財人が自宅を任意売却しようと時間をかけたものの、住宅ローン債権者である銀行の意向と折り合いがつかず、最終的には競売による売却となって終了した。
 妻の手続きでは、妻には目ぼしい財産がなく、管財人による換価業務等なくして、短期間で手続きが終了した。

本事例の結末

会社の破産手続終了
夫・妻ともに免責不許可事由はなく、無事、破産免責を受けることができた

本事例に学ぶこと
 小規模な会社とはいえ、依頼の直前まで現実に稼働していた会社であったため、従業員への説明、仕掛りの処理、売掛金の回収・確保、賃貸事務所の明け渡し、電気等ライフライン契約の解除、在庫備品・車をどうするか等々、申立までに処理すべき細かな問題は沢山あった。
 しかしながら、本件では、依頼者である代表者夫婦が非常にしっかりした方々で、弁護士の指示を的確に実行してくれたほか、指示する書類を即座に用意するなど、迅速な申立を可能とする下地が揃っていた。
申立前に賃貸物件の明け渡しを完了し、明らかに価値のない車を処分しておくなど、申立後に管財人がなすべき業務を少しでも減らしておけたことは大きく、会社破産としては理想的な形で申立をすることができた。