紛争の内容

 代表者は、約10年前に足場建設を業とする会社を設立。好調な時には、年商4億円、従業員10名程の規模でやってきたが、ある時、同業者から事業提携を持ち掛けられて賛同。その会社と協同して事業を行うようになったものの、その後の売り上げは芳しくなく、かえって負債が膨らむ一方であった。そこで、代表者は提携を持ち掛けてきた会社と事業を切り離すことにしたが、その際、会社所有の足場部材等の財産(簿価1,000万円程度)が提携先会社に移転され、負債だけが会社に残る形となった。
 代表者は、個人でも銀行から借り入れを起こし、運転資金として会社に投入するなどしたが、事業を立て直すことはできず、営業廃止を決断した。
 会社としての負債は、主に銀行からの事業資金の借り入れで約7,000万円。代表者個人の負債は、それらの連帯保証債務に個人での借り入れも加えて約8,000万円にまで膨らんでいた。

交渉・調停・訴訟などの経過

 会社と代表者ともに破産申立を行った。
 手元に残った会社財産としては廃車するしかない自動車数台くらいしかなく、代表者個人の財産としては自宅不動産がある状態であった。
 選任された管財人弁護士により、会社が提携先会社と一緒になったいきさつから、提携を解消する際にどのような経過を辿って会社所有の足場部材等の財産がその会社に引き継がれることになったのかにつき、詳細な調査がなされた。その中で、代表者が提携先会社の人間と組んで会社財産を流出させたのではないこと、むしろ提携先会社に騙されるような形で財産を失ったことが明らかになったが、結局、提携先会社からそれらの足場部材や足場部材相当額を回収するのは困難であるということで決着がついた。また、代表者個人の自宅は任意売却により換価され、債権者への配当に充てられた。

本事例の結末

 会社、代表者ともに破産手続きが終了した(代表者は免責を受けることができた)。

本事例に学ぶこと

 「破産申立前に会社の財産が別の会社に移転していて、当の会社には負債しか残っていない」という状態になった場合は、真っ先に詐欺的破産が疑われることになる。本件も外形的に見ればこのようなケースに当てはまっていたが、内情は全く別で、2つの会社の実質的経営者も異なれば、代表者同士の結託もなく、むしろ、破産会社の方がうまく言いくるめられて騙されたという側面が強かったことから、詐欺的破産を疑われることなく、管財人による流出財産の回収の可否が問題となった。
 反社会的勢力なども絡む案件で、管財人にも相応の負担をかけたが、申立から1年強で無事に全ての手続きが終了したことは何よりであった。