紛争の内容

この会社は、取引先から、火災報知器やスプリンクラーの点検作業、報告書作成・消防署に提出するなどの業務を請け、業務を外注先に回し、中間マージンを受け取るビジネスをしていました。従業員は抱えておりませんし、在庫等もありませんでした。
ご相談を受けたのは、主要取引先からの発注が大幅に減ったことと、外注先トラブルが生じたことでした。それまでも、次第に主要取引先からの業務量は減っていて、利益率が悪い状況でしたので、赤字に転落し、代表者個人で借入れ等をして会社を回す努力をしましたが、換金行為等の末、首が回らなくなり、継続的な返済が不可能となったため、法人破産事件として破産申立の依頼を受けました。

交渉・調停・訴訟などの経過

破産手続の受任後、可及的速やかに、弁護士法人名義の受任通知書を、知れたる債権者全員に宛ててお送りしました。なお、法人破産では、個人に比べて債権者が膨大となりますので、代表者の方がいかに債権債務関係を把握しているかがキーになります。代表者の方は、債権者の一覧表を作ってくれるなどして協力的であったため、スムーズに作業が行われました。
弁護士が受任通知書をお送りすると、多くの債権者から問い合わせの電話等が届きます。そのため、今後の流れ等をご説明の上、債権届出を促し(受任通知書にその旨のお願いを記載しています)、債権者側が把握している債権を届け出てもらいます。弁護士は、基本的には、その内容を基に、破産申立書類を作成しておりますので、後に、配当が行われる場合(これは、法人が破産申立てをする時点で、それなりの預貯金や売掛金、財産を有している場合、管財人報酬等の破産手続に必要な費用を賄っても、なお債権者に配当することのできる場合)に重要となってきます。配当は、100%行われることはなく(それが可能なら破産は必要ありません)、債権額に応じて、按分して分けることになるからです。
本件では、一通り事前調査が完了したのち、破産手続を地方裁判所に申し立てました。その後、破産管財人が選任され、管財人面接を実施します。代表者と申立代理人弁護士とで、管財人を務める弁護士の法律事務所に出向くのが普通です。

本事例の結末

第1回目の債権者集会まで(破産手続開始決定がなされた3か月程度後に実施されます)に、管財人が一通りの調査が行われました。その後、第一回の新型コロナウイルス緊急事態宣言等が重なり、6ヶ月程度遅れて第2回債権者集会が開かれ、一定の財団が形成できましたので、債権者に按分配当する(配当率は1%程度)ことになり、第3回目の債権者集会で報告がなされ、法人破産手続が廃止されました。なお、法人は、個人と異なり、廃止により消滅しますので、「免責許可」という手続がありません。

本事例に学ぶこと

新型コロナウイルスという予期せぬ事態により、特に第一回目の緊急事態宣言の影響を裁判所は諸に受けました。そのため、破産事件を含め多くの裁判が延期される結果となりました。手続が延期するということは、その間、破産事件においても様々な事情の変動が生じるリスクがあります。しかし、善良な管理者として財団が棄損しないように注意する義務を負っている破産管財人としては、期日が延期されるからといって業務をおろそかにすることも出来ませんので、注意が必要です。なお、個人破産事件では、破産者個人が保有する財産の基準は破産手続開始決定日となっており、この日が重要な意味を有します。

弁護士 時田剛志