紛争の内容
先代が興した観光バス会社は近隣の学生・生徒の課外活動や地元自治会、老人会などの顧客に恵まれて堅実に経営してきましたが、今般の新型コロナウィルス禍による、学生・生徒の活動自粛、地元自治会、老人会などの旅行など行事の取りやめ等、全国旅行支援の対象でもなかったために、二代目経営者の方は廃業を決意せざるを得ませんでした。
賃借した観光バスの保管場所、事業所の明渡、観光バスの売却、従業員である運転手、乗務員、事務員の解雇などを行い、法人破産の申立てとなります。
また、中小企業の常ですが、代表者は運転資金の連帯保証などをされており、法人の自己破産とともに、代表者個人も自己破産せざるを余儀なくされました。

交渉・調停・訴訟などの経過
観光バス会社の法人破産においては、保有観光バスがある程度よい値段で売却できたため、相当の引継ぎ財産がありました。
ところで、法人の自己破産の受任通知を発するにあたり、代表者からは、金融機関への売掛金等の入金予定を確認しますが、観光バス事業は閑古鳥が鳴いており、それらはないとの説明を受けていました。
そこで、支払い停止を意味する受忍通知を金曜日に普通郵便で発送しましたので、それらの受任通知は県内の金融機関には、月曜日の正午過ぎに配達されたようでした。
その後1週間を過ぎたころ、ある金融機関の支店から、当事務所が発した受任通知の3時間ほど前に、コロナウィルス禍における雇用関係の支援金ないし雇用調整助成金が入金されたが、当方からの受任通知が入金後であるので、貸付金との相殺対象となるので悪しからずとの連絡でした。
代表者に確認したところ、確かに申請していたが、いつ入金されるかは不明であったため、失念していたとのことでした。
銀行取引約款による以上、上記の金融機関の対応はやむを得ないものでしたが、いかにも悔やまれました。
すると、その後、同金融機関の本店の担当者から電話があり、破産申立会社の従業員関係費用に充てるのであれば、受任通知の直前に入金された同金員を払い渡してもよいとの連絡がありました。
代表者に再度確認しましたところ、従業員関係の解雇、解雇予告手当の資金繰りも何とか対応しており、授業印関係の支払は残っていないとの回答でした。
連絡をくれた金融機関にその旨を回答したところ、同金融機関は、入金された従業員関係に対する入金額は、管財人からの要求があれば管財人に支払うこと、導入金額前の残高と金融機関の貸付金と相殺することは承知されたいと連絡がありました。
国からの雇用関係の助成の資金を一金融機関の貸付金の回収に充てるのは倫理的に問題とされたのだと受け止めました。
次に、代表者個人の自己破産申立の準備をしました。
準備を重ねるうちに、先代の相続の遺産分割儀容疑書作成後の、相続登記が未了であることが判明しました。代表者の実兄の方々のそれぞれの底地がいずれも相続登記未了でした。
身を寄せている実兄の土地持分については、その方に相場の共有持分相当額で購入してもらい、それで手続費用は月々の生活の資金としました。
問題は、腹違いの兄がその遺産土地上に一戸建て建物を保有しており、立地が良いために、代表者の持分の評価額も相当額に上ったことです。
来る破産手続において、建物底地である、相続登記未了の遺産不動産(なお、依頼者によれば、相続登記後同不動産を異母兄弟に贈与する予定だったとのことです)については、それを手元に保有するためには、管財人からの財団組入れ、それも、立地が良いことから相当の組み入れ負担があることを事前説明差し上げました。

本事例の結末
法人の自己破産については、簡易配当がなされ、終結しました。
法人代表者の方の自己破産については、遺産不動産については相当額の財団組入れがなされ、これも簡易配当がなされ、終結しました。
法人代表者の方の負債については、特段の免責不許可事由がありませんことから、問題なく、免責許可決定がでました。

本事例に学ぶこと
新型コロナウィルス禍による事業不振、廃業に至った事案です。
代表者の方に、感染法上の5類移行の現在まで持ちこたえれば、廃業しなく済んだかと質問しましたところ、2年前の時点では、予測がつかず、廃業やむなしだったとのことでした。
また、ドライバーの2024年問題もあり、事業を続行したら、それはそれで、大変だっただろうとのことでした。
遺産分割未了の相続財産がある場合には、相応の財団組入れは不可欠です。
今回のように、代表者の方のメインの事業が予測しえない新型コロナウィルス禍により、廃業をやむなくされ、併せて代表者個人も破産せざるを得ませんでした。
せっかくの遺産分割協議書が作成されながら、その相続登記を放置してしまい、また、その後の遺産財産の承継スキームをスムーズに実行しなかったことから、親族を巻き込んでしまったとも言えます。
相続登記の義務化する法律の施行が目前となっています。
これらにも注意しなければなりません。