紛争の内容
本件は、システム開発やエンジニア派遣(SES)を行っていた株式会社の破産事案です。
破産会社は、長年にわたり堅実な経営を続けていましたが、昨今のIT業界における深刻なエンジニア不足の影響を強く受けました。主要なプロジェクトに従事していたエンジニア数名が相次いで退職したことにより、受注していた開発案件の納期遅延が発生。それに伴う損害賠償請求や、新たな人材確保のための採用コスト増大により資金繰りが急速に悪化しました。
最終的な負債総額は数億円に達し、自力再建が不可能となったため、会社側が自己破産を申し立て、私が裁判所より破産管財人に選任されました。

交渉・調停・訴訟等の経過
管財人就任後、直ちに破産会社の代表者および代理人弁護士と面談を行い、会社の財産状況と業務の現状を把握しました。
システム開発会社特有の問題として、仕掛中の開発案件の処理と、機密情報が含まれるサーバーやPC内のデータ管理があるかどうかが問題となりました。
調査の結果、破産財団(配当に回せる資産)に組み入れられる換価可能な財産は「ほぼ無い」状態であることが確認できました。

本事例の結末
徹底的な財産調査を行いましたが、破産手続費用を支弁するのに足りる財産を形成できないことが明らかとなりました。そのため、裁判所に対し「異時廃止」の上申を行いました。
債権者集会において、債権者に対して調査結果と配当が見込めない旨を丁寧に報告しました。特段の異議が出されることもなく、裁判所により破産手続廃止の決定がなされ、事案は問題なく終了しました。その後、破産会社の法人格は消滅しました。

本事例に学ぶこと
本件は、人的資源がそのまま収益の源泉となるシステム開発会社の脆弱性が浮き彫りになった事例です。どれほど技術力があっても、人材の流出がそのまま倒産に直結するリスクがあります。
また、管財人の視点からは、資産がほとんどない状態であっても、迅速かつ透明性のある調査を行うことの重要性を再認識しました。「財産がない」という結論であっても、そこに至るプロセスを債権者に納得してもらうことが、無用な混乱を避け、円滑に手続きを終了させる鍵となります。
負債が数億円規模であっても、早期に適切な法的処理に乗せることで、関係者の混乱を最小限に抑えることが可能です。

弁護士 申 景秀