紛争の内容
本件は、法人の破産と同時に、その代表者個人についても破産手続を行った事案です。ご依頼者の方は法人の債務について連帯保証をされていたため、法人の破産に伴い、代表者個人としても破産を余儀なくされる状況にありました。
問題となったのが、法人の決算書上、代表者への多額の貸付金が計上されていたという点です。仮に、貸付金の名目で実際に代表者に会社の金銭が流れていたとすれば、それは代表者個人が法人に対して負う返済義務、すなわち法人側から見れば回収すべき財産(債権)ということになり、破産手続において非常に大きな問題となります。そのため、この貸付金の計上が実態を伴うものであるのか、それとも帳簿上の処理にすぎないのかを解明する必要がありました。
交渉・調停・訴訟等の経過
まず、決算書上に計上された代表者貸付金について、その実態の有無を明らかにするための調査を行いました。
具体的には、当該決算書を作成した税理士に対して確認を行い、この貸付金がどのような経緯で計上されたのかを丁寧に究明いたしました。
その結果、実際に代表者へ金銭が交付された事実があったわけではなく、帳簿上の数字を整合させるために、便宜的に代表者貸付金として処理していたにすぎないことが判明いたしました。こうした帳簿上の処理は決して珍しいものではありませんが、破産手続においては、その実態を裏付けをもって確認しておくことが不可欠です。そこで、税理士への確認結果等を踏まえ、貸付金の実態がないことを明らかにしたうえで、破産管財人や裁判所に対しても適切に説明を行いました。
本事例の結末
上記の究明作業を経て、代表者貸付金に実態がないことが確認されたことにより、この点が手続の障害となることはなく、法人および代表者個人の破産手続をいずれも無事に終えることができました。結果として、法人も円滑に閉じることができ、ご依頼者の方も過大な返済義務を負うことなく、新たな一歩を踏み出すことができました。
本事例に学ぶこと
法人の決算書に代表者貸付金が計上されているケースは実務上しばしば見受けられますが、その多くは、実際に金銭の貸付けが行われた結果ではなく、帳簿上の数字を整合させるために便宜的に計上されたものです。
しかしながら、破産手続においては、この貸付金が実態を伴うものであれば法人にとって回収すべき財産となり、その扱いいかんによっては手続全体に大きな影響を及ぼしかねません。
したがって、たとえ「よくあること」であったとしても、これを漫然と処理するのではなく、決算書を作成した税理士に確認するなどして、その計上の経緯と実態の有無を一つひとつ丁寧に究明していくことが重要です。
本件では、こうした地道な究明作業を怠ることなく行ったからこそ、貸付金に実態がないことを裏付けをもって明らかにでき、結果として法人・代表者個人いずれの手続も円滑に終えることができました。破産事件においては、形式的な帳簿の背後にある実態を見極める姿勢こそが、ご依頼者の方の利益を守り、手続を確実に完了させるうえで欠かせないものであると、本事例はあらためて教えてくれています。
弁護士 田中 智美
弁護士 遠藤 吏恭







